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ひとでなし
ひとでなし
山本 周五郎
Read ひとでなし by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,484 characters · 38 screens
「もういちど云うが」と彼はやわらかい、ふくらみのある声で云った、「もう店はあいているじぶんだぜ、いくのかいかねえのか」
大きいほうの男は眼をそむけ、困ったように、片手を意味もなく振った、「女なしでやりてえんだ、女なしでやれると思うんだ、女がはいって事がうまくいったためしはねえんだから」
痩せた男は面白そうに、やさしい眼つきで伴れを眺めていた。相手がうまい洒落でも云うのを待っている、といったような、さも興ありげな眼つきだった。
「わかったよ」と大きいほうの男は顔をそむけながら云った、「じゃあ、おれはいくが、すみのほうは大丈夫だろうな」
「あとで会おう」と痩せた男が云った。
大きいほうの男は伴れの顔をちょっと見て、そしてふところ手をしながら歩きだした。大川につながる、堀に沿った道をはいると、片側町で横町が三筋ある。どの横町もゆき止りになっているが、それぞれに飯屋や居酒店が幾軒か並んでいた。この付近は大名の下屋敷や、小旗本の家が多く、そこに勤めている仲間とか小者などが、そういう店のおもな客のようであった。――男は二つめの横町へ曲り、こちらから家数をかぞえていったが、五軒めの家の前で立停り、訝しそうに首をかしげた。