Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
Read へちまの木 (へちまのき) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 29,120 characters · 58 screens
「いつか話したと思う」と木内は続けて云った、「私は芝居の座付き作者になるつもりだった、代作ということでいたに乗った台本も幾つかある、だがそのうちに、或る芝居小屋の、頭取のかみさんとできてしまい、それがばれて、芝居の世界から追い出されちまった」
「もううちはそこですよ、うちへいってから聞きましょう、こんなところでぐずぐずしていると本当に風邪をひきますぜ」
「おれたちは苦労した、いや、苦労したのはおたねのほうだろう」木内は俯向いて両手で顔を押えながら云った、「芝居の世界から閉め出されたのは、おれにとって羽根をむしられた鳥のようなもんだ、出来ると思うことはなんでもやってみたが、結局はけちな筆で生きるよりしようがなかった、文華堂へ転げ込んだのは三年まえだが、ぼろ長屋の店賃を払って、一人がやっと食えるほどの手当にしかならず、おたねは自分からすすんで、箱根の湯治宿へ女中奉公にいってくれたんだ」
「それにしては」と房二郎が云った、「記事を書きながら、ずいぶんけいきよく飲んでいたな」
「かみさんから仕送りがきていたのさ」
「それで箱根か」
「湯治場は金になるからな」と云って木内はまた頭を垂れた、「――金になる、か、どんな気持で三年、箱根の山の中で苦労したことだろう」