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わがあいするしじんのでんき(さん)
わが愛する詩人の伝記(三)
室生 犀星
Read わが愛する詩人の伝記(三) (わがあいするしじんのでんき(さん)) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,406 characters · 22 screens
或る金持ちの男は妻の一生食えるだけの有金を渡して、やっとこさ別れた。そして彼は一文無しの乞食のようになって気がつくと、明日から何をして食って行ったらいいかさえ判らない、けれども彼の本心はただ別れたい一心があったのだ、だがわが萩原朔太郎はなんの苦もなく、先きの妻に金をあたえ、あとの妻は妻の方から出て行った。そのあとの妻の君は私に後に萩原ほどいい人はいないと、別れたあとでもよく入らっしゃるし、わたくしもお机を出してお仕事をすると仰有れば、夜はおそくまで好きなようにおさせしていましたと言った。では何故お別れになったのだと聞くと、なにぶんにも人物がぐにゃぐにゃなところがあって、可愛がってくださるのやら、そうでないのやら、一向たよりになろうとしても、たよれなかったと彼女はぐにゃぐにゃが主な原因だといっていた。もっともわたくし自身あまりにも若かったからと言い添え、いまなら別れはしなかったでしょうと萩原死後十年目に、彼女は二十三歳の若さで四十何歳かの萩原と結婚したが、当時はまだコドモで何にも知らなかったからと、その別れを彼女は私を訪ねて来てくやしがっていた。彼女は東北の大きな酒造家の令嬢で、萩原は見合いに行って肝じんの見合の人よりも、お茶を持って出た彼女の方が美しかったので、あべこべに求婚したのである。