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わがまち
わが町
織田 作之助
Read わが町 (わがまち) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 93,840 characters · 186 screens
「おばちゃん、どこイ行くねん」
と、君枝が随いて行こうとするのを、他吉はいつにない怖い声で、
「阿呆! 随いて行ったら、いかん。どえらい目に会わすぜ」
それきりオトラは顔を見せず、他吉はサバサバした。
朝日軒のおたかはなにか昂奮して、おからを煮いて、もって来た。
ところが、他吉が芸者やヤトナの悪口を言ったというので、同じ路地の種吉との間にいざこざが持ち上った
種吉は河童路地の入口で、牛蒡、蓮根、芋、三ツ葉、蒟蒻、紅生姜、鯣(するめ)、鰯など一銭天婦羅を揚げ、味で売ってなかなか評判よかったが、そのため損をしているようであった。
蓮根でも蒟蒻でも随分厚身で、女房のお辰の目にひき合わぬと見えたが、種吉は算盤おいてみて、
「七厘の元を一銭に商って損するわけはない」
しかし、彼の算盤には炭代や醤油代がはいっていなかったのだ。
自然、天婦羅だけでは立ち行かず、近所に葬式があるたび、駕籠かき人足に雇われた。氏神の生国魂(いくだま)神社の夏祭には、水干を着てお宮の大提燈を担いで練ると、日当九十銭になった、鎧を着ると、三十銭あがりだった。種吉の留守には、お辰が天婦羅を揚げたが、お辰は存分に材料を節約(しまつ)したから、祭の日通り掛りに見て、種吉は肩身の狭い想いをし、鎧の下を汗が走った。