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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Read キャラコさん by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,043 characters · 56 screens
とにかく、不思議な老人である。『社交室』ではこの老人がしばしば問題になった。たぶんホテルの持主の親類かなにかだろう。さもなければ、あんな乞食のような老人をのさばらしておくはずはない。それにしても眼ざわりでしようがないから、支配人にかけあって追っぱらってしまおうということに意見が一致したが、先にたって交渉にゆくものもなく、うやむやになってしまったが、だれもいやがって、この老人が入ってくると、きこえよがしに舌うちしたり、おおげさに眉をしかめたりする。
ところで、剛子は、その老人をみすぼらしいとも思わないし、かくべつ気味がわるいとも思わない。どうしてみながそんなにいやがるのかそのわけがわからない。
剛子には、この老人がなにかたいへんな不幸にあったひとのように考えられ、自分のできることならどんなことでもして慰めてあげたいと思って、老人がサン・ルームの片隅などで淋しそうに坐っているのを見るとやさしく言葉をかけたり、ダームの相手になってやったりした。
すこし陰気だが、話してみると、教養のある奥ゆかしいところがあって、剛子にすれば、社交室のとりとめのない男たちとよりは、この老人と一緒にいるほうがむしろ楽しいくらいだった。