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ザザむしのつくだに
ザザ虫の佃煮
佐藤 垢石
Read ザザ虫の佃煮 (ザザむしのつくだに) by 佐藤 垢石 (さとうこうせき) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,267 characters · 5 screens
一度味わったら、終生忘れ得られるものではない。と、大した効能書である。
私も田舎の育ちであるから、昆虫食については、まるで無知というわけではないのだ。子供のときから、蝗はふんだんに食ってきた。蜂の子も珍重した。また赤蛙の照り焼きは、牛肉よりもおいしいと思ってきたのである。
けれど、川に棲む虫は初見参である。なかなか手が出ない。秋田県地方の人々は、姫柚子などよりも大きい源五郎虫を、強精剤として貪り食うというから、ザザ虫や川百足など、姿の小さいものは恐るるに足るまいと思うが、理屈は抜きにして、ちょっと手が出ないのだ。
まことに、風流の心なき人々ではある。と、嘆じながら博士は、次に重箱を移すと、下の箱には、蜂の子の佃煮が入っていた。これは、私の子供の時からの好物である。と、言って箸につまむのを見て、蜂の子を食べるのにザザ虫を食えんちゅう法はない。という博士の意見である。そこで、私は決心した。一匹のザザ虫を口へ放り込み、眼をつむって奥歯で一噛み噛みしめた。
別段、異ようの味もせぬ。ただ塩からいだけだ。川百足も、瀬虫も、ザザ虫と同じようなものだ。おいしくも、なんともない。