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シェイクスピアのきょうり
シェイクスピアの郷里
野上 豊一郎
Read シェイクスピアの郷里 (シェイクスピアのきょうり) by 野上 豊一郎 (のがみとよいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,656 characters · 26 screens
と冠木門もしゃれたものであり、後園はよく手入れされて、うつろの古木の間にダフォディル、桜草、忘れな草、カーライト(卯の花に似て赤い花)、山吹などが、美しい青芝の上に咲き出ている。シェイクスピアの頃には斯んなによく手入れされていたかどうかは問題であるが、彼のローマンスを飾る背景としては似合わしい手入れの仕方である。
私たちは詩人自らの秘密の恋の場面をのぞくような好奇心を懐いてコッテイジの中へ入った。女学生らしい見物人が二三人一緒になった。床は石灰石で敷き詰められてあるが、時代がたって、でこぼこしている。台所には古風な大きな炉があり、ドアの隣りは食料品の貯蔵所で、居間の壁際にはひどく擦り減らされた木の腰掛が取りつけてある。此処に「うぶな若者」のウィリアムが八つ年上の農家の処女アンと腕を組み合わせて腰かけている図を描き出して見るとおもしろかった。後ではあらゆる恋の場面を書いたシェイクスピアではあったけれども、その頃は「彼よりも悧巧な」アンの方が恋の手ほどきをしてやったものかと思われる。
此の家の見物の一つの興味は、三百年前の自作農の生活状態を想像させるのに都合のよい家具類がそのままに保存されてあることで、古い陶器や白鑞の食器のほかに珍らしい革の徳利(牧場用)が天井から下っていたり、二階の寝室には彫のある寝台に