Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
Read パノラマ島綺譚 (パノラマとうきだん) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 78,920 characters · 153 screens
「オイ君、あの池の側にボンヤリ立っている男は、一体誰なのだ。一向見覚えのない男だが」
彼は最初その男を、花園の湯の池のほとりに見出しました。そして、側に侍っていた一人の詩人にこう尋ねたのです。
「御主人は御見忘れになりましたか」詩人が答えて云うのには、「あれは私共と同じ様な文学者なのです。二度目に御傭いなすった内の一人なのです。この間暫く国へ帰ったとかで、見かけなかった様ですが、多分今日の便船で帰って来たのではありますまいか」
「アア、そうだったか。そして、名前は何というのだ」
「北見小五郎とか申しました」
「北見小五郎、私は一向思い出せないが」
その男が不思議に記憶に残っていないことも、何かの凶兆ではなかったのでしょうか。それからというもの、廣介はどこにいても、北見小五郎という文学者の目を感じました。花園の花の中から、湯の池の湯気の向うから、機械の国ではシリンダーの蔭から、彫像の園では群像の隙間から、森の中の大樹の木蔭から、彼はいつでも廣介の一挙一動を見つめている様に思われました。
そしてある日のこと、かの島の中央の大円柱の蔭で、廣介は余りのことに、遂にその男を捉えたのでした。