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ピンカンウーリのアマ
ピンカンウーリの阿媽
豊島 与志雄
Read ピンカンウーリの阿媽 (ピンカンウーリのアマ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,499 characters · 7 screens
彼女は銚子を持って現われ、十分間ばかり相手をしてくれる。
懇意になった、と言っても、ただそれだけのことである。彼女の名前も知らない、ということにしておこう。十年ほど前に彼女は良人と死に別れて、今のような稼業にはいったらしく、それ以外の経歴は何にも分らない、ということにしておこう。
私が行くと、彼女は芍薬の花のような立ち姿でにこと笑ってくれる、それだけで充分だったのだ。十分間差し向いでいても、むつかしいことは言葉が互に通じないので、殆んど無言に等しかった。愛欲の問題など、彼女の方にもなかったし、私の方にもなかった。
私にとっては寧ろ、彼女は愛欲からの護符だったのだ。青島から出発する前晩、私はまた彼女のところで酒を飲んだ。その時、彼女は覚束ない日本語で言った。
「こんばん、あそびなさい。」
最後の晩だから、うちの芸妓の一人と遊んでゆきなさい、わたしが許してあげる、そういう意味なのである。
もし彼女に逢わなかったら、或いはそういうこともあり得たかも知れないが、彼女と知り合った以上、そんなことはばかばかしいのである。
私は微笑して、頭を振った。
「こんど、また、寄りなさい。