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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
Read ボニン島物語 (ボニンとうものがたり) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,772 characters · 41 screens
それで掛取りは退散した。なりとかたちはちがうが月も十二月も末、相手もおなじく商家の手代面……南部の血筋は、大概、商家に責め殺されるときまったが、こんなことを、何度繰返せばいいのか、それがおかしくてならぬ」
「商人といえば利視公の代にも、そんなことがあったそうな」と駒三郎が後をひきとった。
「ご帰国に先立って、旅の仕度を商家へ注文されたが、金をやらぬので代物をよこさない。お別れにきた客が、朝から上邸に詰めかけていたが、昼すぎになってもお発ちになるようすがない。呆気にとられて、挨拶をして、みな帰った。おれの曽祖父が八方走りまわり、半蔵門の八戸の上邸から二百両ほど借りだしたが、それでは足らぬ。つい先の月、お輿入れになったばかりの奥方の化粧料のうちから、五十両ばかり拝借し、それで、ようやくご出立にということになった」
田中久太夫は御先手物頭、武芸指南役で九石二人扶持、七尾駒三郎は中間小頭で六石五斗二人扶持、深志甚左衛門は物産奉行の調方で三石二人扶持、江戸勤番では軽輩の扱いだが、いずれも大曽祖父以来、五代にわたる譜代の臣で、本国では会所の御用の間に勤め、御家老附寄合組に入っている。