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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Read ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,411 characters · 263 screens
もし差入れが出来なくても、また持って帰ればいい。そう思いながら、彼は店々の品物を眺めてゆるゆる歩いた。
靴屋と花屋にはさまれた小さな肉屋に、鶏卵がたくさん籠に積まれているのに彼は眼をとめた。卵などはいいだろうな、と思って彼はその前に足を止めた。卵は澄んだ日の光の中で白っぽく艶をもっていた。そこに近づくと、肉切台のむこうに立っている肥った親爺に、彼は卵を指さして見せた。
「これを、五つ。いや、十ばかり貰おうかな」
何となく店の内部をのぞきこむと、肉屋の土間に鶏が一羽立っていた。鶏は頸をまっすぐに立て、眼を閉じ、まるで剥製のように微塵もうごかなかった。それは白木の軍鶏であることが、彼には一目で判った。見慣れた尾毛の色が、先ず眼にきたのである。彼はふと胸を衝かれるような気がした。
「どうしたの。この鶏」
「眼をつぶされたんでさ。蹴合いでね」親爺は顎でその方をしゃくった。「こんなのの肉は堅くて食えないね。昨夜無理矢理に買わされたんだが――」
「縛っておかないでも、逃げ出さないものかしら」
「こうなれば絶対に動かないね。いさぎよいもんだね、蹴合鶏というやつは。じたばたしないで、死ぬのを待ってるだけだね」