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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Read ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,411 characters · 263 screens
この老医が何故ぼくを病気だと思うのか、そう決めてしまっているのか、よく判りません。彼には彼なりの根拠があるのでしょう。
赤木医師は風貌に似ず狷介な性格で、気に入らないとがみがみ叱ったり、診察を拒否したりするものですから、町内の評判はあまり良くないようです。だから患者の数もごくすくないのですが、老医は、
「なんだ。町内の連中におれの腕が判るものか」
と歯牙にもかけない。すくなくともかけていないポーズを取っています。それに齢が齢なので、ごしごし働く気もないし、息子もそれぞれ独立して大病院に勤めていて、後顧の憂いは一応ないからでしょう。一日三人か五人の患者を見たら、それで店じまいです。もっとも老医はここらでは草分けの医院で、古い門構えになっていて、ちょっと入りにくい趣きがあるのです。門柱は傾いていても、形はいかめしいし、それをくぐって植込みを縫い、暗い玄関の式台を上るのは、ここらの人にはやはり抵抗を感じるのではないでしょうか。で、町内の連中はここを敬遠して、近頃出来の瀟洒な診療所風の医院におもむき、乾いたスリッパをつっかけて、日射しの明るい待合室でテレビなどを見ながら、辛抱強く順番を待っている。