Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Read ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,411 characters · 263 screens
そのせいで無口な久美子も、彼に話しかける気持になったらしいのです。言葉を交しているうちに、生憎とそこへがたがたと表の扉があいて、お客が一人入ってきたものですから、会話はそこで途切れて、久美子はそそくさと奥に引っこんでしまいました。蟹江はひどく残念な気持がしました。入ってきた客というのは、猿沢佐介だったのです。
『あの時、俺と久美子が親しげに話してるのを見て、猿沢は俺に因縁をつける気になったんだな』
しかし猿沢が久美子に興味を持っていようとは、彼は別に思ってもいなかったものですから、あのメチル問答の夜のことは、蟹江には相当のショックでした。
その夜以来、蟹江は二日か三日に一度くらいの割で、無理して『すみれ』に立ち寄るのですが、その度に必ず猿沢がでんと腰をおろしていて、章魚の刺身か何かで盃を傾けているのです。そして彼の姿を見ると、
「やあ、蟹江君」
などと機嫌のいい、聞きようによっては勝ち誇ったような声で、あいさつをします。だから蟹江も自然と彼の傍にかける羽目となり、飲みながら世間話をするような恰好になってしまいます。しかし久美子のことについてはあの夜以来、一度も猿沢は口には出さないのでした。