Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
マクシム・ゴーリキイのでんき
マクシム・ゴーリキイの伝記
宮本 百合子
Read マクシム・ゴーリキイの伝記 (マクシム・ゴーリキイのでんき) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 60,543 characters · 120 screens
ゴーリキイは、合図の言葉を知らされて「燕のように迅く」或る場末町へ走って行った。そこに小さな銅器工の仕事場があった。暗い仕事場の中には異様に青い眼をもった一人の縮毛の男がいて、鍋に錫をかけている。――が、ゴーリキイは、勤労者の若者の炯眼で見破った。労働者には似ていない。――ゴーリキイは銅器工に訊いた。
「こちらに仕事はありませんか?」
「こちらにゃ、あるが、お前の仕事は、ないね!」
若い縮毛の男はちらりとゴーリキイを見て、再び鍋の上へ頭を下げた。ゴーリキイは、こっそり足でその男の足を突いた。若い男はびっくりしたように怒って鍋をふり上げたが、ゴーリキイが彼に瞬きをするのをさとると、静かに言った。
「行け……行け……」
往来へ出てゴーリキイが待っていると、その男も出て来てタバコをふかしつつ、黙ってゴーリキイを見詰めた。
「あなたはチーホンですか?」
「そうだよ」
「ピョートルがやられたんです」
「どこのピョートルだね」
「長い、寺僧に似た男ですよ」
「で?」
「それだけです」
すると、その銅器工は、
「ピョートルだの、寺僧だの何だのって、俺に何の関係があるんだね?」
と訊いたが、この訊きかたそのものがゴーリキイに彼の労働者でないこと、しかし彼の使命は果されたことを一層はっきり感じさせた。