Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
いちやのうれい
一夜のうれい
田山 花袋
Read 一夜のうれい (いちやのうれい) by 田山 花袋 (たやまかたい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,003 characters · 4 screens
綿に透りて、さながら湯をば覆えしたるごとく、汗は流れて、熱をやみたる人のごとく、いとあつし。
ここに至りて、われは甚だしく労れ、あたかも小児が慈母に抱かれて泣き止みたるが如く、またやさしき保姆のかなしき守歌をきかせられたるが如く、いつか熟眠の境に入りぬ。
かくてこの長き冬の夜に、寒けき月が或は綿の如き雲の中をくぐり、或は墨のごとき黒雲に蔽われ、或は晴れ、或はくもりて、独り静かに大空をわたり行くをも知らず、時々月明に驚きて騒ぎわたれる烏の、ねつかぬ乳呑児を嚇すたよりとなるをも知らず、今こそはおのれの天地なれといい顔に、犬の高き遠吠を火の見やぐらに響かすとも知らず、凄じき風の吹き来りて、ねやの雨戸をがたがたと揺かすとも知らず、時々ひびく遠寺の鐘が、たえず無常を告ぐるとも知らず、東の窓の明くなりたるに驚きて、眼さむれば、あたかも小児が朝起出でて、未だ母の乳房にありつかぬ中の如く、泣き出したきまでに、いとかなし。むしろよべ泣きて寝入りしままに、蘇えらでもよかりしものと。