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ひとにぎりのかみのけ
一握の髪の毛
田中 貢太郎
Read 一握の髪の毛 (ひとにぎりのかみのけ) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,548 characters · 14 screens
「何人も知るはずがないのだもの」
「あなた方はそうでも、女の方をつけてたものがあったかも判らないわ、で、家へ帰ってみたの」
「帰らないさ、そうだとまた喧嘩をしなくちゃならないから」
「じゃ、朝、わたしが容子を見に往ってあげるわ」
「明日でいいだろうか」
「やったところで、いやがらせだから、心配はないでしょ、ほんとうに腹が立って、二人のいる処が判ってるなら暴れこむわよ」
「それもそうだ」
「羽織と袴を除りなさいよ」
章一は羽織と袴をとって単衣を脱ぐと女は枕を持って来た。しかし、章一は女の眼の下の曇の深い肉の落ちた顔が気になっていた。
「横になったら、どう」
女は章一を抱え込むようにして横に寝かそうとした。章一は眼をつむって女のするがままになっていた。と、女はけたたましい声をあげて叫ぶなり、章一を衝き飛ばすように起きて、両手を右の足首にやった。そこには手飼の白猫が眼を怒らして牙をむきだして唸っていた。
「畜生ッ、よくもわたしを噛みやがったな」
女は口惜しくてたまらないので隻手で撲りつけようとした。猫はちらちらと眼の前を掠めてどこかへ往ってしまった。
「畜生ッ」
女は口惜しそうに叫んだ。