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ひとにぎりのかみのけ

一握の髪の毛

田中 貢太郎

Read 一握の髪の毛 (ひとにぎりのかみのけ) by 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,548 characters · 14 screens

Aozora Bunko

章一は腹這いになって敷島を執りながら婢の方を見た。

「そうだ、なんだね」

「今、ね、壮い女の方がいらして、きむらしょういちと、やまざきのおくさまに、これを渡してくださいって、名も何もおっしゃらないで、すぐお帰りになりましたが、お心当りがおありになりましょうか」

婢は手にしていた小さい白い包みをそこへ置いた。章一は意味が判らないので女の方を見た。

「何か持って来ることになっていたのですか」

「わたし、知らないわ」

女にも意味が判らないらしかった。

「なんだろう」

章一が包みに手をかけると女は婢の方へ向いて云った。

「それじゃ、まあ、置いといてくださいまし、後で判るでしょうから」

それを聞くと婢はすぐ出て往った。

「へんね、なんでしょう、開けてごらんなさいよ」

「そうですね、なんでしょう、何人がよこしたのでしょう」

章一は麻のハンケチで包んだ包みを解いた。中には一握り位ある女の髪の毛を円くして入れてあった。章一ははっと思った。

「まあ」

女の声は顫いを帯びていた。章一は石のようになっていた。

「奥さんじゃないこと」

「そうですよ」

二人の間には沈黙が続いた。

「どうしてここにいるのを知ったのでしょう」