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ひとあしおさきに
一足お先に
夢野 久作
Read 一足お先に (ひとあしおさきに) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 40,200 characters · 79 screens
私はワナナク手で茶革の蓋を折り曲げて、タオル寝巻の内懐に落し込んだ。そうしてジッと未亡人の寝顔を見返りながら、堪らない残忍な、愉快な気持ちに満たされつつ、心の底から押し上げるように笑い出した。
「……ウフ……ウフ……ウフウフウフウフウフ……」
それから私がドンナ事を特一号室の中でしたか、全く記憶していない。ただ、いつの間にか私は一糸も纏わぬ素っ裸体になって、青白い肋骨を骸骨のように波打たせて、骨だらけの左手に麻酔薬の残った小瓶を……右手にはギラギラ光る舶来の鋏を振りまわしながら、瓦斯入り電球の下に一本足を爪立てて、野蛮人のようにピョンピョンと飛びまわっていた事を記憶しているだけである。そうしてその間じゅう心の底から、
「ウフウフウフ……アハアハアハ……」
と笑い続けていた事を、微に記憶しているようである……。……が……しかし、それは唯それだけであった。私の記憶はそこいらからパッタリと中絶してしまって、その次に気が付いた時には奇妙にも、やはり丸裸体のまま、貧弱な十燭の光りを背にして、自分の病棟付きの手洗場の片隅に、壁に向って突っ立っていた。そうして片手で薄黒いザラザラした壁を押さえて、ウットリと窓の外を眺めながら、長々と放尿しているのであったが、その時に、眼の前のコンクリート壁に植えられた硝子の破片に、西に