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ひとあしおさきに
一足お先に
夢野 久作
Read 一足お先に (ひとあしおさきに) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 40,200 characters · 79 screens
ただ毛布の皺が山脈のように重なり合っているばかりである。私は苦笑も出来ない気持ちになった。
「ハハア。夢ですか。エヘヘヘヘ。それじゃもしや足の夢を御覧になったんじゃありませんか」
「エッ……」
私は又ギックリとさせられながら、そう云う青木のニヤニヤした鬚面をふり返った。どうして私の夢を透視したのだろうと疑いながら、その脂肪光りする赤黒い顔を凝視した。
この青木という男は、コンナ奇蹟じみた事を云い出す性質の人間では絶対になかった。長いこと大連に住んでいるお蔭で、言葉付きこそ少々生温くなっているけれども、生れは生っ粋の江戸ッ子で、親ゆずりの青物屋だったそうであるが、女道楽で身代を左前にしたあげく、四五年前に左足の関節炎にかかって、この病院に這入ると、一と思いに股の中途から切断してもらったので、トウトウ身代限りの義足一本になってしまった。ところが、その時まで一緒に居た細君というのが又、世にも下らない女で、青木の義足がシミジミ嫌になったらしく、ほかの男と逃げてしまったので、青木の方でも占めたとばかり、早速なじみの芸者をそそのかして、合わせて三本足で道行きを極め込んだが、それから又、色々と苦労をしたあげくに、やっと大連で落ち付いて八百屋を開く事になった。