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ふざいじぬし
不在地主
小林 多喜二
Read 不在地主 (ふざいじぬし) by 小林 多喜二 (こばやしたきじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 69,990 characters · 141 screens
――霧のように細かい、冷たい雨が降っていた。
「由ッ! そったらどこで、何時迄何してるだ!」――家の中で、母親が怒鳴っている。
「今、えぐよオ。」
母親はベトベトした土間の竈に蹲んで、顔をくッつけて、火を吹いていた。眼に煙が入る度に前掛でこすった。毎日の雨で、木がしめッぽくなっていた。――時々竈の火で、顔の半分だけがメラメラと光って、消えた。
「早ぐ、ランプばつけれ。」
家の中は、それが竈の中ででもあるように、モヤモヤけぶっていた。眼のあき所がない。由三は手さぐりで、戸棚の上からランプの台を下した。
「母、油無えど。」
「?」――母親はひょいと立ち上った。「無え?……んだら、※さ行って来い。」
「ぜんこ?」
「ぜんこなんて無え。借れて来い!」
由三はランプの台を持ったまま、母親の後でウロウロしていた。
「行げッたら行げ! この糞たれ。」
「ぜんこよオ!」――背を戸棚にこすりつけた。「もう貸さね――エわ。」
「貸したって、貸さねたって、ぜんこ無えんだ。」
「駄目、だめーえ、駄目!……」
「行げったら行げッ!」
由三は殴られると思って、後ずさりすると、何時もの癖になっている頭に手をやった。