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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
Read 主計は忙しい (かずえはいそがしい) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,315 characters · 37 screens
「知っている」市郎左衛門は頷いた、「――彼の気を変えてやろうとするそこもとの計らいと察したから、気づかぬ風をして出してやったのだ」
「軽がるしいことを致しました、このままには捨ておけません」主計は立った、「――馬を拝借させて頂きます」
「主計、斬ってはならんぞ」
しかし主計は、黙ってそこをとびだした。
昨日の朝から約一昼夜、女づれだからそう遠くまではゆくまい。氷川下から馬を駆って東海道をまっしぐらに西へ六郷の舟渡し、川崎から鶴見、神奈川の宿までとばし続けで、さすがに馬が疲れだした。しかし心はせく、無理を承知で鞭をくれかくを入れ、保土ヶ谷から戸塚へと長い坂を馳け登っていった。
戸塚にかかる少し手前、松並木が途切れて左右に畑と枯田のうちわたしてみえるところで、ようやく折江の一行に追いついた。――かれらを追いぬいて馬を停め、とび下りて振返るのを見ると、折江と松乃とがまず声をあげ、平之助は明らかに恟っとした。
「ちょっと申上げたいことがあったものですから、――吉造、この馬を預かってくれ」下男に手綱を渡した彼は、折江のそばへ来てにこっと笑った、「――先生にあのことを申上げました、まだおゆるしは頂きませんが頂いたも同様ですから」