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いきりょう
久生十蘭ジュラネスク 珠玉傑作集
久生 十蘭
Read 久生十蘭ジュラネスク 珠玉傑作集 (いきりょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,698 characters · 42 screens
いくら月がいいからといっても、お盆前の十三日に杣木をひくやつはない。夜をこめてこっそり官木を間引くなんてこともありそうだが、いくらはずみがついたからといって、のんきらしく歌拍子をいれる抜作もあるまい。
川岸からよっぽど高いところまで峻しい岩腹で、そのほうへ、ずっと石垣を畳んだ段々の焼畑になっている。
大鋸のひびきも斧の音もきこえず、馬鈴薯か辣薤か、葉っぱばかりさやさや揺れているしんとした山岨の段々畑から派手なような寝ぼけたような歌ごえが聞えてくるというのは、なんといってもだしぬけすぎて納得しにくいのである。
ごろた石の川洲に中腰になって斜面の嶺のほうをうかがうと、歌ごえは真向いの段々畑からばかりではなく、額を合せるように八方から迫ったあちらの嶺からもこちらの峡からも聞えてくる。
山彦ではない、谷川がひとひねりひねって川隈になった榛木林の斜面のあたりに、ひときわ調子の高いつんぬけた歌ごえがあって、その声が、ひとくさり前唄をうたうと、峰谷々のちがう声がいちどきに、なんとかさアの、こらさと、間拍子をいれる。
こんな晩に悪ふざけをするのは高山狐か飛騨狸にきまっている。