Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ぼしぞう
久生十蘭短篇選
久生 十蘭
Read 久生十蘭短篇選 (ぼしぞう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,344 characters · 96 screens
衒勇を振うことも趣味の一つであった。当時、京から大津へ出る美濃路の口にあたる栗田口や逢坂越には、兇悪無慙な剽盗がたむろしていて、昼でも一人旅はなりかねる時世だったが、泰文は蝦夷拵え柄曲の一尺ばかりの腰刀を差し、伴も連れずに馬で膳所の遊女宿へ通った。遠江の橋本宿は吾妻鏡にも見える遊女の本場だが、気がむけばそのまま遠江まで足をのばすという寛濶さで、馬が疲れると自分のを捨てて通りがかりの馬をひったくり、群盗の野館のあるところは、
「中納言大蔵卿藤原ノ泰文」
と名乗りをあげて通って行く。声の大きなことは非常なもので、賊どもは気を呑まれて茫然と見送ってしまうというふうだった。
また泰文は破廉恥な愛欲に特別の嗜好を持っていた。すまし顔の女院や上などは目もくれない。遊興はすべて下司張った、刺戟の強いほうが好ましい。醍醐の花見や、加茂の葵祭、観学院の曲水の宴、さては仙院の五節舞などというありきたりな風流ごとにはどうしてもなじめない。宿場の遊女を単騎で征伐に出かけるのも仕事の一つだが、そのほか毎夜のように邸を抜けだして安衆坊の散所へ出かけて、乞食どもと滓湯酒を飲みわけたり、八条猪熊で辻君を漁ったり、あげくのはて、鉢叩や歩き白拍子を邸へ連れこんで乱痴気騒ぎをやらかす。