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ぼしぞう
久生十蘭短篇選
久生 十蘭
Read 久生十蘭短篇選 (ぼしぞう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,344 characters · 96 screens
は泰文の望みどおりに持仏堂の下の墓へ入った。
泰博が殺されたとき、さる府生が役所で悼みをいうと、泰文は、
「やっと二人だけだ。祝辞を述べてもらうにはまだ早い」
と毒々しいことをいったということである。泰文ほど上手に刺客を使う男も少ないので、国吉と泰博は泰文が人をやって殺させたのだという風説が当時あった。「京草子」の作者も、それらしいことをにおわせているが、これは信じにくい。
泰文は時流に適さない魅偉な容貌をしているので、ことさらに残酷なことを好む変質者のように見られているが、人をやって自分の子供を殺すようなことまではしなかったろうと思われる。稚気に近い粗暴な振舞いや、思いきった悖徳無残な言動が多く、妻や子供らに酷薄な所業をしたが、それは考えるような悪質なものではなく、うちあけたところ、なにか変ったことをしでかして、同時代の人間をあっといわせたいという慾求から出ているのだと見る向きもある。残忍も無慈悲も、おのれを見せびらかし、自分というものを世間にしっかり印象づけたいという執念によることなのであるから、風説どおりに人をやって自分の子供たちを殺させたのなら、泰文がそれを吹聴もせずにおくわけはないからである。