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らんせい
乱世
菊池 寛
Read 乱世 (らんせい) by 菊池 寛 (きくちかん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,477 characters · 7 screens
そうした危険を冒すよりも、今日の場合は、一日も早く朝廷に謝罪恭順して、桑名松平家の社稷を全うすることが、何より大切である。それには、当家には先代の御子の万之助様がある。当主定敬公は、美濃高須藩からの御養子であるが、万之助様は、当家の正統である。定敬公が、禁闕に発砲して、朝敵の悪名を被ていられる以上、万之助様を擁立して、どこまでも朝廷に恭順の誠を表するのが得策であるというのである。
藩士たちは、武士の面目の上から、東下を潔しとし、恭順を斥けていたものの、心のうちでは、皆差し迫る妻子との別離を悲しみ、住み馴れた安住の地を離れて、生還の期しがたい旅に出る不安に囚われ、銘々心のうちでは、二の足を踏んでいたのであるから、多くの藩士たちは、口には出さないが、下士たちの絶対恭順論に心を傾けずにはいなかった。神籤のために、嫌々ながら、東下論に従っていた恭順論者は、再び自説を主張し始めた。かくて、一藩はまたもや激しい混乱に陥った。
東下論の主張者である酒井孫八郎、杉山弘枝はおどろいて、下士たちの鎮撫方を、政治奉行の小森、山本に交渉した。二人は、彼ら自身恭順論者でありながら、必死に下士たちを宥めて、籤に当って決った藩論に従わしめようと焦った。