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にひゃくとおか
二百十日
Read 二百十日 (にひゃくとおか) by Natsume Sōseki (夏目 漱石) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 29,466 characters · 60 screens
碌さんは腰から、ハンケチを出す。
「なるほど、拭くと、着物がどす黒くなる」
「僕のハンケチも、こんなだ」
「ひどいものだな」と圭さんは雨のなかに坊主頭を曝しながら、空模様を見廻す。
「よなだ。よなが雨に溶けて降ってくるんだ。そら、その薄の上を見たまえ」と碌さんが指をさす。長い薄の葉は一面に灰を浴びて濡れながら、靡く。
「なるほど」
「困ったな、こりゃ」
「なあに大丈夫だ。ついそこだもの。あの煙りの出る所を目当にして行けば訳はない」
「訳はなさそうだが、これじゃ路が分らないぜ」
「だから、さっきから、待っていたのさ。ここを左りへ行くか、右へ行くかと云う、ちょうど股の所なんだ」
「なるほど、両方共路になってるね。――しかし煙りの見当から云うと、左りへ曲がる方がよさそうだ」
「君はそう思うか。僕は右へ行くつもりだ」
「どうして」
「どうしてって、右の方には馬の足跡があるが、左の方には少しもない」
「そうかい」と碌さんは、身躯を前に曲げながら、蔽いかかる草を押し分けて、五六歩、左の方へ進んだが、すぐに取って返して、
「駄目のようだ。足跡は一つも見当らない」と云った。
「ないだろう」
「そっちにはあるかい」