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にとうしゃにのるおとこ
二等車に乗る男
豊島 与志雄
Read 二等車に乗る男 (にとうしゃにのるおとこ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,342 characters · 13 screens
二十二三歳の、髪の長い、顔の蒼白い、痩せた神経質な人で、学校に行ってるのでもなく、昼間は大抵室の中に寝転んでるらしく、夕方になってどこへか出かけてゆく。そしていつ帰るともなく、恐らくは夜遅くだろうが帰ってきて、それから、机に向って勉強をしている。そして夜の一時二時頃になると、大抵いつも、檻の中の虎みたいに、室の中をぐるぐる歩き続ける。一時間も二時間も、恐らくは夜明け頃まで、同じようにぐるぐる歩き続けている。そして朝は十時頃まで雨戸がしまっている。
不思議な人があるもんだ……と私は考えた。だけならいいけれど、夜更けの室の中をいつまでも歩き続けてることが、妙に私の気にかかり初めた。私は度々夜中に眼を覚すようになった。眼を覚すと縁側の戸を開けて、向うを覗かずにはいられない。覗いてみて、向うの窓の戸が閉ってるか、人影が見えないかすると、私はほっと安心する。けれど、大抵はやはり、檻の中の虎みたいなその人の姿が見える。顔付は分らないけれど、髪をくしゃくしゃに乱して腕を組んだり頭を振ったりしているところを見ると、多分眉根に深い八の字を寄せて、怒った恐ろしい顔をしてるに違いない。