Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ぼうれいホテル
亡霊ホテル
山本 周五郎
Read 亡霊ホテル (ぼうれいホテル) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,706 characters · 20 screens
精しい事情は存じませんですが……お部屋は血でいっぱい、寝台から這いだした夫人が、扉の握を掴んだまま血みどろになって、さんばら髪で死んでいたその凄さ、――今思い出しても慄と……」
給仕はぶるっと身を震わした。
「それ以来、あの部屋へお客様をお泊め致しますと、定って変な事がございますので、――今では使わない事になっているのです。然しどうか……この話は決して御他言下さいませぬように、なにしろこんな事が広まっては客商売のことですから」
「その点は安心し給え、僕なら決して誰にも饒舌りはしないから」
「有難う存じます。若しお望みでしたら早速お部屋を変えましょうか」
「否ここで宜いよ」
「然し若し貴方様に間違いでもありましては」
「まあそれ程の事もなかろう」
給仕は会釈して出て行った。
厭な話である、ゆうべ慥に聞いた女の呻声や、あの長い紙を静かに静かに引裂くような物音が、まざまざと耳に甦って来る。――扉の握を掴んだまま血みどろになって死んでいたという、若い夫人の姿も、どうやら眼にちらつくような気がする。
「ちぇ! 厭な話を聞いた」
舌打をしながらがぶりと珈琲を飲んで、煙草に火を点けようとした時、卓上電話がジリジリと鳴りだした。