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じんがいまきょう

人外魔境

小栗 虫太郎

Read 人外魔境 (じんがいまきょう) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 101,713 characters · 205 screens

Aozora Bunko

最後に、折竹は淋しそうに笑い、その日の会見はそれまでになった。人々が去ったあとのがらんとしたなかで、暫く彼は物思いにふけっていた。やがて、ベルを押して部屋付女中を呼び、

「君、昨日あのザチという婦人は、来なかったかね」

「いらっしゃいませんわ。でも随分、あの方変った服装をしていらっしゃいますわね。顔隠しをしたり皮鞋をはいたり……やはりあの方は近東の方でしょうね」

「そうらしい」

と、折竹は憮然とうなずいた。彼にいま、そのザチという婦人が、頻々と訪れてくる。氏素姓も知れず国籍もわからぬが、姿顔といい気高さに充ち、どこか近付き難いところのある四十恰好の婦人だと――一度顔隠しをのぞいた部屋付女中がいうのである。

もちろん、彼はその女には逢わない。こんな、近東人らしい婦人と接近などした日には、ますます彼の周囲には厳戒が加えられ、厭な日々が続かなくてはならないからだ。実際「大地軸孔」参加発表以来の英官辺の神経は、びりびり彼にも響いてくるほど、鋭いものになっている。第一、彼に接近するものは給仕人をはじめ、残らずそれを機会に変えられたような始末。そんな情勢のなかでその婦人と会ったなら、ますます此方のほうで事を構えるようなもんだと、――彼はザチという婦人を極力避けていたのだ。