Japanese reading practice

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あだうちさんたい

仇討三態

菊池 寛

Read 仇討三態 (あだうちさんたい) by 菊池 寛 (きくちかん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 16,136 characters · 33 screens

Aozora Bunko

彼は右の顎を見たかったのである。十六年の苦しい旅の朝夕に、敵に対して懐いた呪詛と憎悪とが、むくむくと蘇ってきた。が、すぐに彼に反省の心が動いた。一旦、瞋恚の心を捨てて弁道の道にいそしんでいる者が、敵の紋所を見たからといって、心をみだすべきではない。それは捨て去ったはずの煩悩に囚われることである。まして、広い日本国中に、二つない紋所とは限っていない。故郷の松江でこそ珍しい紋所でも、他国へ行けば、数多い紋所であるかもわからない。実際、江戸の町住居をしたとき、通りがかりの若衆が同じ定紋を付けているのを見て、すわや敵の縁者とばかり、後をつけて行って、彼が敵とは縁も由縁もない、旗本の三男であることを、突き止めたことさえある。おそらくこの老僧も、かの若衆と同じ場合であろう。十六年の間、もがき苦しんでも邂逅し得えなかった敵に、得度した後に、悟道の妨げになるようにと偶然会わせるほど、天道は無慈悲なものではあるまい。もしまたそれが正真の敵であったとして、自分はどうしようというのだ。僧形になっている身で、人を殺すことはできない。一旦、還俗した後、僧形になっている敵を討ってめでたく帰参しようというのか。