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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
Read 今戸心中 (いまどしんじゅう) by 広津 柳浪 (ひろつりゅうろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,688 characters · 74 screens
桶豆腐にでもしましょうかね。それに油卵でも」
「何でもいいよ。湯豆腐は結構だね」
「それでよござんすね。じゃア、花魁お連れ申して下さい」
吉里は何も言わず、ついと立ッて廊下へ出た。善吉も座敷着を被ッたまま吉里の後から室を出た。
「花魁、お手拭は」と、お熊は吉里へ声をかけた。
吉里は返辞をしない。はや二三間あちらへ行ッていた。
「私におくれ」と、善吉は戻ッて手拭を受け取ッて吉里を見ると、もう裏梯子を下りようとしていたところである。善吉は足早に吉里の後を追うて、梯子の中段で追いついたが、吉里は見返りもしないで下湯場の方へ屈ッた。善吉はしばらく待ッていたが、吉里が急に出て来る様子もないから、われ一人悄然として顔を洗いに行ッた。
そこには客が二人顔を洗ッていた。敵娼はいずれもその傍に附き添い、水を杓んでやる、掛けてやる、善吉の目には羨ましく見受けられた。
客の羽織の襟が折れぬのを理しながら善吉を見返ッたのは、善吉の連初会で二三度一座したことのある初緑という花魁である。
「おや、善さん。昨夜もお一人。あんまりひどうござんすよ。一度くらいは連れて来て下すッたッていいじゃありませんか。