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こんにちのじもく
今日の耳目
宮本 百合子
Read 今日の耳目 (こんにちのじもく) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,228 characters · 11 screens
横丁の出端れの米屋の前にも祝出征の旗が立った。ここでは店先を片づけて、人出入りも多く、それが今度出てゆく若主人らしい人が、店先で親類らしい中年者と立ち話をしたりしている。そこには緊張して遑しい仕度の空気が漲っていた。米屋の商売も、全くこれ迄とはちがったものになりかかっている最中のことだから、出る前の話もいろいろと心を砕くわけだろう。
そう思って店で立話している人々の表情も今日の世相の中に汲みとりながら、ふっと視線をうつしたら、その隣りは炭屋であった。どぶ板と店のガラス戸との間に無理して体を平らにして爪立っている人のように例の名誉戦死者某々殿の立札が立っている。米屋の店はぴったりくっついた隣だから、祝出征の旗の横には、いや応なくその立札が並んで眼に入る。
通行人はそのようにして二つ並んであるものを何とも云えない心持の眼のなかに見て行く。そればかりでなく、出てゆく当人も出入りにつけて、自分を祝う旗のとなりに語られている事の在りようを目から心へ刻み直される始末である。
町会か或は在郷軍人会の、そういうところの人々がより合って、名誉を記念する方法を講じたとき、こういう情景が生じる場合もあり得ることを思っていただろうか。