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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
(雨少しくふりいず。娘は空をあおぐ。)
娘 いつの間にか雨が降って来た。(柳にかけたる衣をはずす。)今夜はきっと雨が降って、暗いものすごい晩に相違ない。おそろしい蛇が……執念ぶかい蛇が……どんな姿をして来るだろう。(身をふるわせる。)ああ、どうしたらよかろう。ここで泣いていても仕様がない。ともかくも早く家へ帰って、おとっさんやおっかさんと相談するよりほかはあるまい。早くそうしましょう。
(娘は二つの衣をかかえ、しおしおとあゆみ去る。柳のかげより蟹いず。)
蟹 いい心持で午睡をしている枕もとで、泣いたり笑ったり、がやがや騒ぐので、すっかり眼がさめてしまった。あの蛙め、早くおれを呼び起せばいいのに、蛇にみこまれてふるえ上がって、もう声も出なくなったのだろう。ほんとうに弱い奴だ。(あざわらう。)しかし又、あの娘さんもあんまり無考えだな。いくら蛙が可哀そうだといって、自分も弱い女の癖に、うっかり差し出るからこんなことになるのだ。
(蛙の声きこゆ。)
蟹 蛙の奴め。自分の代りにあの美しい娘を人身御供にして置きながら、平気で面白そうに唄っているが、娘の家では今ごろ大騒ぎをしているだろう。