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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
」
「や、御病気が募られてか。」
「いや、御病気とはお見受け申されまぬが、何やら御機嫌が散々にならせられて、俄かに武者ぞろえの御用意を仰せ出されました。若殿へもそのお使いにまいりまする。」
「火急の武者揃え……。」と、小坂部もおなじく眉をよせた。「して、その敵は……。」
「判りませぬ。」
彼は不安らしい眼をして小坂部の顔を見た。
「何かの注進でもあったのか。」と、かれはまた訊いた。
「いや、なんの注進も参ったようには存じませぬ。お前さまがお館を出られますると、やがて荏原権右衛門が大殿の御前に伺候して、何か密々に言上いたして居りましたが、それから殿の御機嫌が変わらせられて、お側の者どもを遠ざけて暫し御思案の末に、俄かに仰せ出されました武者揃え……。誰も彼も寝耳に水で、敵はいずこに居ることやら……。」
これだけの報告では、小坂部に取っても寝耳に水で、何が何やら一向に判らなかった。この頃の世の習い、いつどこでどんな軍が始まるやら、もとより見当は付かなかったが、それにしても余りにも火急の沙汰である。四国西国の敵は遠い、北国の敵も今日あすに都に攻め上って来ようとは思われない。