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はくしゃくのかんざし
伯爵の釵
泉 鏡花
Read 伯爵の釵 (はくしゃくのかんざし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,403 characters · 39 screens
……
「ええ。」
紫玉はスッと立って、手のはずみで一振振った。
「ぬしにおなりよ。」
白金の羽の散る状に、ちらちらと映ると、釵は滝壺に真蒼な水に沈んで行く。……あわれ、呪われたる仙禽よ。卿は熱帯の鬱林に放たれずして、山地の碧潭に謫されたのである。……トこの奇異なる珍客を迎うるか、不可思議の獲ものに競うか、静なる池の面に、眠れる魚のごとく縦横に横わった、樹の枝々の影は、尾鰭を跳ねて、幾千ともなく、一時に皆揺動いた。
これに悚然とした状に、一度すぼめた袖を、はらはらと翼のごとく搏いたのは、紫玉が、可厭しき移香を払うとともに、高貴なる鸚鵡を思い切った、安からぬ胸の波動で、なお且つ飜々とふるいながら、衝と飛退くように、滝の下行く桟道の橋に退いた。
石の反橋である。巌と石の、いずれにも累れる牡丹の花のごときを、左右に築き上げた、銘を石橋と言う、反橋の石の真中に立って、吻と一息した紫玉は、この時、すらりと、脊も心も高かった。
七
明眸の左右に樹立が分れて、一条の大道、炎天の下に展けつつ、日盛の町の大路が望まれて、煉瓦造の避雷針、古い白壁、寺の塔など睫を擽る中に、行交う人は点々と蝙蝠のごとく、電車は光りながら山椒魚の這うのに似ている。