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はくしゃくのかんざし

伯爵の釵

泉 鏡花

Read 伯爵の釵 (はくしゃくのかんざし) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,403 characters · 39 screens

Aozora Bunko

その時、水がドブンと鳴った。

舳と艫へ、二人はアッと飛退いた。紫玉は欄干に縋って身を転わす。

落ちつつ胴の間で、一刎、刎ねると、そのはずみに、船も動いた。――見事な魚である。

「お嬢様!」

「鯉、鯉、あら、鯉だ。」

と玉江が夢中で手を敲いた。

この大なる鯉が、尾鰭を曳いた、波の引返すのが棄てた棹を攫った。棹はひとりでに底知れずの方へツラツラと流れて行く。

九

「……太夫様……太夫様。」

偶と紫玉は、宵闇の森の下道で真暗な大樹巨木の梢を仰いだ。……思い掛けず空から呼掛けたように聞えたのである。

「ちょっと燈を、……」

玉野がぶら下げた料理屋の提灯を留めさせて、さし交す枝を透かしつつ、――何事と問う玉江に、

「誰だか呼んだように思うんだがねえ。」

と言う……お師匠さんが、樹の上を視ているから、

「まあ、そんな処から。」

「そうだねえ。」

紫玉は、はじめて納得したらしく、瞳をそらす時、髷に手を遣って、釵に指を触れた。――指を触れた釵は鸚鵡である。

「これが呼んだのかしら。」

と微酔の目元を花やかに莞爾すると、

「あら、お嬢様。」

「可厭ですよ。」

と仰山に二人が怯えた。