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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Read 伸子 (のぶこ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 232,543 characters · 466 screens
伸子は、皮肉そうに落着いた母の言葉で、絶望的な不安を覚えた。多計代は我知らずあっちにこづき、こっちにこづきした佃を、今度は伸子ぐるみ、一層しっかり自分の手の下に結びつけてしまおう、としているのだ。伸子は万一そんなことになったら最後だと思った。何とかして自分を離すまいとする母の愛より、伸子は、生存の根柢を脅かされるような恐怖を感じた。佃が、即座に、一言の許に――伸子が予期していたように、その問題を笑殺してしまわなかったことは、彼女にとって深い不安であった。
佃が立って行く。踵にくっついて行って、伸子は、
「ね、あなた、本当に考える必要のある問題なの」
と、立ったまま背の高い彼の顔を見上げた。
「私――いやよ」
「…………」
「私どもの生活というものは絶対に無くなってしまうことよ、もしそんなことしたら」
「だから考えて見ます、と云ったでしょう?」
「礼儀上の挨拶? じゃあ」
「…………」
「ね、本当によ。私にだけ早くきかして。どっち? 勿論いや、ね」
「さあ……しかし――もしそれがあなたの幸福になるんなら、私は――どうせ捧げた体です」
十一
本心の明らかでない、その癖変に対手の感謝を強いるような佃の返答は、伸子の心を暗くした。