Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
のぶこ
伸子
宮本 百合子
Read 伸子 (のぶこ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 232,543 characters · 466 screens
彼女は突然、
「あなた、御影へおいでんなったかい?」
などと佃に訊いた。
「あすこはいいところだない。知ってる者があって、五十日も厄介になっていたが、つい近くに、えー、何ちゅう名だったか――なかに髪結の店まである温泉があってない――省三、お前覚えないごんだか?」
「温泉と云えば……お父様、近くでどこかいい温泉は御承知ありませんか」
食事が終る頃に、佃が訊ねた。
「ありふれたところでは、箱根や伊豆だが」
佐々は奥羽地方の温泉を、二三挙げた。
「おでかけですか?」
佃は曖昧に答えた。
「ええ……考えて来たことがあるもんで……もし、貧乏書生の懐にかなうところでもありましたら、ちょっと出かけようかと思います」
雑談だと思って聞いていた伸子は、思わず注意をこらして佃を見た。佃は、どこまでも、顔さえ父の方にだけ向け、父との話にして云った。
「どうせ旅行しついでですから、十日ばかり行けたら行きたいと思って来たのです」
「ほほう! それはいい計画だ。君の体にだって有益ですよ、是非いらっしゃい。温泉はいい」
父一流の耳学問の広さで、温泉による天然療法の価値を論じた。
伸子は、思いがけなさや、佃がなぜ、直接自分に云ってくれないかと云う疑問など感じたが、次第次第にそれらを忘れて、嬉しくなって来た。