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ぞくしゅう
俗臭
織田 作之助
Read 俗臭 (ぞくしゅう) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 34,630 characters · 70 screens
「出て行け」と、いうのは、いわば男の口癖だ。現に彼の家では結婚して一月も経たぬ内に、最初の「出て行け」があった。が、もうかれこれ十三年何とかかんとか言いながら連れ添うている。結婚したのは、たしか伝三郎が二十七歳、初乃が十八歳。昔は女は早く結婚したものだ。十九が年廻り悪いので、十八で結婚したのだ、が、その頃は十七位で結婚したのがいくらもある。そう言えば、彼には十六で既に女があった。……果てしがなかった。昔話が始って、一座の空気が少し和いだ。が、政江の心は収らなかった。伝三郎と権右衛門は違う。彼の「出て行け」は彼女の記憶する限り、最初のものだ。権右衛門は伝三郎の様に出駄羅目をいう人ではない。……権右衛門の比類なき堅固な意志に就て政江は大いに喋った。人々は謹んできいた。が、喋りながら彼女は不安であった。何れは戻って来るにしても、権右衛門はどんな顔をして、どんな事を言うであろうか。再び出て行けというだろうか。何としたものであろう……。
日が暮れて、彼は帰って来た。政江は出来るだけ、いわゆる「背を向ける態度」を示したが、しかし、権右街門の眼尻に皺が寄っているのを見ては、さすがに、ほっとした気持を隠し得なかった。