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ちゅうとう
偸盗
Read 偸盗 (ちゅうとう) by Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,934 characters · 97 screens
。が、彼も弟も、今は昔の彼らではない。
太郎は、橋を渡りながら、うすいあばたのある顔に、また険しい色をひらめかせた。――
(すると、突然ある日、そのころ筑後の前司の小舎人になっていた弟が、盗人の疑いをかけられて、左の獄へ入れられたという知らせが来た。放免をしているおれには、獄中の苦しさが、たれよりもよく、わかっている。おれは、まだ筋骨のかたまらない弟の身の上を、自分の事のように、心配した。そこで、沙金に相談すると、あの女はさもわけがなさそうに、「牢を破ればいいじゃないの」と言う。かたわらにいた猪熊のばばも、しきりにそれをすすめてくれる。おれは、とうとう覚悟をきめて、沙金といっしょに、五六人の盗人を語り集めた。そうして、その夜のうちに、獄をさわがして、難なく弟を救い出した。その時、受けた傷の跡は、今でもおれの胸に残っている。が、それよりも忘れられないのは、おれがその時始めて、放免の一人を切り殺した事であった。あの男の鋭い叫び声と、それから、あの血のにおいとは、いまだにおれの記憶を離れない。こう言う今でも、おれはそれを、この蒸し暑い空気の中に、感じるような心もちがする。