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びぜんてんいちぼう
備前天一坊
江見 水蔭
Read 備前天一坊 (びぜんてんいちぼう) by 江見 水蔭 (えみすいいん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,511 characters · 25 screens
「へえ、手前、当家の主人、半田屋九兵衛。本日はお早いお着き様で御座りました」
「早い訳じゃ。今朝、西大寺を出立したばかりで」
「へえへえ、左様で御座りまするか」
「我等三人。チト長逗留を致すかも知れぬが。好いか」
「有難う御座りまする」
「いやそう早く礼を云ってくれては困る。この後を聴いたらキッとその方、前言を取消すと存ずるが」
「いえ、どう仕りまして」
「実は我等懐中甚だ欠乏で」
「へえーン」
「三人で二月三月、事に依ったら半歳か一年、それだけ厄介に相成るとして、その間に宿代の催促されてはちょっと困る。それが承知ならこのままに腰を据えるが、さもなくば他の宿屋へ早速転泊致す。それで好いか、どうじゃの」
すべてこの談判は医者の俊良というのが当っていた。
半田屋九兵衛これには驚いたが、しかし冗談だろうとも考えて。
「へへへへ」
「いや、ただ笑っていては困る。これは本気で掛合致すのじゃから、チャンと胆を据えて掛ってくれねば、こちらにもいろいろと都合のある事じゃで」
「いや本気で仰有るとなら、実に近頃お見上げ申した御方様で。どうもこの文無しで宿を取る人間に限って、大きな顔をして威張り散らして、散々大尽風をお吹かせの上、いざ御勘定となると、実は、とお出でなさいます。