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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
Read 入江のほとり (いりえのほとり) by 正宗 白鳥 (まさむねはくちょう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,430 characters · 50 screens
家じゅうで私だけが同情してやってるのじゃないか」と忌々しく感じた。が、しかし、後ですぐに心を和げて、自分がこうしていっしょにいるのも今しばらくの間だから、できるだけ大切にしてあげて悪く思われぬようにしたいと思い返した。……ほかの兄弟は皆な好きな学問をしているのに、辰さんばかりは一生こんな汚い村の先生をして暮すんだもの、可哀そうだ。お父さんが不公平だと、兄の身の上を不仕合せな人として憫んだ。そして、紙箒を持って兄の机の上の埃を払いながら、書物の間に挿んである洋紙を覗いて、拙い手蹟で根気よく英字を書留めているのに、感心もし、冷笑を浮べもした。その中には、同窓の誰にも劣らなかった英語自慢の勝代にも解きえない文句が多かった。
“Nonsense”という言葉には圏点をつけて、ノンセンスと仮名をも振って大事そうに記している。
「あなたの言うことはノンセンスよ」などと、朋輩の間で言合ったことを勝代は思いだして独笑いをした。そして、「辰さんはこの英語の意味を理解しているのかしらん」と訊きたかった。
と、そこへ、辰男は梅干で茶漬の朝餐をすまして、歯を吸い吸い上ってきたので、勝代は押入から洋服を取りだしてやって、