Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

Read 入江のほとり (いりえのほとり) by 正宗 白鳥 (まさむねはくちょう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 25,430 characters · 50 screens

Aozora Bunko

新に買った二分心のランプを小さい妹が持ってきたが、辰男は日が暮れても灯火を点けなかった。記憶に刻まれている英語を闇の中で果もなく綴っては崩し、崩しては綴りしていた。兄がすでに整えている旅の荷物を乱すのが厭さに、終日何もしないで退屈醒ましに、勝代に英語を読ませたり、不審な字句を解いてやったりしているのが、襖越しに彼れの耳へも入った。

「辰はそこにいるのかい、ランプも点けないで」栄一は襖を細目に開けて暗がりを透かし見して、「ここへ来い、ここへ」と、むりじいに空いた座へ招いた。

妹の机には青い机掛けが掛って、その上には木彫の奈良人形と、亡妹の写真を挿んだ写真立があった。毛糸のランプ敷に据えられたランプの明るい光は、差向いで炬燵に当っている兄弟の手に持った英書を照らしていた。辰男は灯光の邪魔にならぬような処に坐った。

「わしも学校にいた時分には、会話に身を入れて、西洋人の夜学校へも通ったりして、一時はたいていの事は自由に話ができたものだ。しかし今はまるでだめだね。ちょっとした挨拶さえよく考えなくちゃ英語で言えなくなったよ。日本にいりゃ外国人と話をする機会はないし、会話の研究こそまったくのむだ骨だった」