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はじめてにしだきたろうのなをきいたころ
初めて西田幾多郎の名を聞いたころ
和辻 哲郎
Read 初めて西田幾多郎の名を聞いたころ (はじめてにしだきたろうのなをきいたころ) by 和辻 哲郎 (わつじてつろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,030 characters · 8 screens
四高で行なわれていた意見はそのままわたくしにも移って来たのである。そういう事情は明治の末期の一つの特徴であるかも知れない。というのは、そのころ有名な学者や文人には、あまり高齢の人はなく、四十歳といえばもう老大家のような印象を与えたからである。夏目漱石は西田先生の戸籍面の生年である明治元年の生まれであるが、明治四十年に朝日新聞にはいって、続き物の小説を書き始めた時には、わたくしたちは実際老大家だと思っていた。だから明治四十二年に正味の年が四十歳であった西田先生も、同じく老大家に見えたのである。先生の処女作が『善の研究』であり、その刊行がこの年よりもなお二年の後であるというようなことは、あとになって考えることであって、その当時はすでに四高における長い教歴を持った哲学者、すでにおのれの体系を築き上げた哲学者としてわたくしどもの眼に映ったのである。
これは決してわたくしの主観的な印象に過ぎないのではあるまい。当時まだ二十歳で、初めて大学生になったわたくしなどには、全然事情は解らなかったが、専門の哲学者の間では、あるいは少なくとも一部の哲学者の間では、先生の力量はすでに認められていたのであろう。