Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
わかれたるつまにおくるてがみ
別れたる妻に送る手紙
近松 秋江
Read 別れたる妻に送る手紙 (わかれたるつまにおくるてがみ) by 近松 秋江 (ちかまつしゅうこう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,985 characters · 103 screens
そうして此度は泊った。――斯ういう処へ来て泊るなんということは、お前がよく知っている、私には殆ど無いと言って可い。
続けて行ったものだから、お宮は、入って来て私と見ると、「さては……」とでも思ったか「いらッしゃい。」と離れた処で尋常に挨拶をして、此度上げた顔を見ると嬉しさを、キュッと紅をさした脣で小さく食い締めて、誰れが来ているのか、といったような風に空とぼけて、眼を遠くの壁に遣りながら、少し、頸を斜にして、黙っていた。その顔は今に忘れることが出来ない。好い色に白い、意地の強そうな顔であった。二十歳頃の女の意地の強そうな顔だから、私には唯美しいと見えた。
私は可笑くなって此方も暫く黙っていた。けれども、私はそんなにして黙っているのが嫌いだから、
「そんな風をしないでもっと此方においで。」と言った。
待っている間、机の上に置いてあった硯箱を明けて、巻紙に徒ら書きをしていた処であったから机の向に来ると、
「宮ちゃん、之れに字を書いて御覧。」
「えゝ書きます。何を?」
「何とでも可いから。」
「何かあなたそう言って下さい。」
「私が言わないったって、君が考えて何か書いたら可いだろう。