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さんじゃくかく
化鳥・三尺角 他六篇
泉 鏡花
Read 化鳥・三尺角 他六篇 (さんじゃくかく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,536 characters · 27 screens
「晩にゃ又柳屋の豆腐にしてくんねえよ。」
「あい、」といって苫を潜って這うようにして船から出た、与吉はずッと立って板を渡った。向うて筋違、角から二軒目に小さな柳の樹が一本、その低い枝のしなやかに垂れた葉隠れに、一間口二枚の腰障子があって、一枚には仮名、一枚には真名で豆腐と書いてある。柳の葉の翠を透かして、障子の紙は新らしく白いが、秋が近いから、破れて煤けたのを貼替えたので、新規に出来た店ではない。柳屋は土地で老鋪だけれども、手広く商をするのではなく、八九十軒もあろう百軒足らずのこの部落だけを花主にして、今代は喜蔵という若い亭主が、自分で売りに廻るばかりであるから、商に出た留守の、昼過は森として、柳の蔭に腰障子が閉まって居る、樹の下、店の前から入口へ懸けて、地の窪んだ、泥濘を埋めるため、一面に貝殻が敷いてある、白いの、半分黒いの、薄紅、赤いのも交って堆い。
隣屋はこの辺に棟を並ぶる木屋の大家で、軒、廂、屋根の上まで、犇と木材を積揃えた、真中を分けて、空高い長方形の透間から凡そ三十畳も敷けようという店の片端が見える、その木材の蔭になって、日の光もあからさまには射さず、薄暗い、冷々とした店前に、帳場格子を控えて、年配の番頭が唯一人帳合をしている。