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じゅうにしこう
十二支考(下)〔全2冊〕
南方 熊楠
Read 十二支考(下)〔全2冊〕 (じゅうにしこう) by 南方 熊楠 (みなかたくまぐす) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 251,906 characters · 495 screens
これを竜華の三会といって馬琴の『八犬伝』の文句にも出れば、弥陀の念仏流行して西方浄土往きの切符大投げ売りとなるまでは、キリスト教の多くの聖人大士が極楽へ直通りせず最終裁判の日を待ち合すごとく、弘法大師その他の名僧信徒、殊に畏れ多いが至尊で落飾された方々もこの弥勒の出世をあるいは入定したり、あるいは天上霊域で待ち合され居るはずとさる高僧から承った。とにかく昔の仏徒が弥勒の出世を竢つ事、古いキリスト教徒がミルレニウムを竢ったごとく、したがって、中国や朝鮮で弥勒と僭号して乱を作した者もありと記憶し、本邦でも弥勒十年辰の年など万歳が唱え祝い、余幼時「大和国がら女の呼いおとこ弥勒の世じゃわいな」てふ俚謡を聞いた。およそ仏教の諸経に、弥勒の世界と鬱単越洲を記せる、その人間全く無差別で平等で、これが西洋で説かれていたら遠くの昔に弥勒社会主義とかようのものが大いに起ったはずだが、東洋には上述の僅々小人がこれを冒して、小暴動を起したくらいに止まり、わが邦では古く帝皇以下ことごとくその経文を篤信して静かにその出世を竢たれたので、どんな結構な文も読む者の心得一つで危険思想も生ずれば、どんな異常な考えを述べた者も穏やかにこれを味わえば人心を和らげ文化を進めるに大益ありと判る。