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じゅうにしこう
十二支考(下)〔全2冊〕
南方 熊楠
Read 十二支考(下)〔全2冊〕 (じゅうにしこう) by 南方 熊楠 (みなかたくまぐす) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 251,906 characters · 495 screens
これらの例から見ると、摩頭羅なる語の本義は何ともあれ、国としても人としても仏典に出るところ猴に縁あれば、猴の和名マシラはこれから出たのかと思わる。
本来サルなる邦名あるにマシラなる外来語をしばしば用いるに及んだは、仏教弘通の勢力に因ったがもちろんながら、サルは去ると聞えるに反してマシラは優勝の義に通ずるから専らこれを使うたと見える。『弓馬秘伝聞書』に祝言の供に猿皮の空穂を忌む。『閑窓自語』に、元文二年春、出処不明の大猿出でて、仙洞、二条、近衛諸公の邸を徘徊せしに、中御門院崩じ諸公も薨じたとあり。今も職掌により猴の咄を聞いてもその日休業する者多し。予の知れる料理屋の小女夙慧なるが、小学読本を浚えるとては必ず得手と蟹という風に猴の字を得手と読み居る。かつて熊野川を船で下った時しばしば猴を見たが船人はこれを野猿また得手吉と称え決して本名を呼ばなんだ。しかるに『続紀』に見えた柿本朝臣佐留、歌集の猿丸太夫、降って上杉謙信の幼名猿松、前田利常の幼名お猿などあるは上世これを族霊とする家族が多かった遺風であろう。『のせざる草紙』に、丹波の山中に年をへし猿あり、その名を増尾の権の頭と申しける。