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じゅうはちじょうおつ
十八条乙
山本 周五郎
Read 十八条乙 (じゅうはちじょうおつ) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,127 characters · 26 screens
「あなた、気をおしずめ下さい」
「うるさい寄るな」庄兵衛は妻の手を乱暴に振放した、「おれはこの藩が憎い、伊原友三郎が憎いし伊原と血のつながるおまえも憎い、おれはここを出てゆくぞ」
庄兵衛は泥まみれの足で家の中へとび込んでゆき、金包とみえる物を持って戻った。刀をぬぐいもせずに鞘へおさめ、居間へはいったと思うとすぐに、袴をはきながら出て来た。あやは庭にはだしで立ったまま、良人のすることを黙って見ていた。十余年もの夫婦ぐらしで、庄兵衛の気質はよくわかっている。いまなにか云えば、却って怒りを煽るだけだろう。そう考えたのであるが、まもなく、縁側へあらわれた庄兵衛が笠を持ち、草履を持っているのを見て「あ」と口を押えた。
「閉門の身だからな」彼は草履をはき、刀を腰に差し、笠を持って庭へおりた、「門からも木戸からも出ない、罪人は罪人らしく、塀を乗り越えてゆくぞ」
「あなた」とあやがふるえる声で云った、「それはご本心ですか」
「見ていればわかる」と彼は云った、「他国へいって乞食になろうとも、こんなばかげた土地にいるよりはましだ、まっぴらだ」
「待って下さい」あやは良人の袖にすがりついた、「いいえお止めは致しません、あなたが出ていらっしゃるのならわたくしもまいります」