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クルスかんのん
十字架観音
野村 胡堂
Read 十字架観音 (クルスかんのん) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,655 characters · 27 screens
「隠さず言ってくれるのは嬉しいが――、シモン遠藤殿に逢うのは危い、気を付けるがよい」
「ハイ」
妙な気まずさ、二人は別々のことを考えて居りました。
「お秋は妙なことを言うのだ」
暫らくたって、継穂もなく余吾之介は口を切りました。
「――――」
それを迎えて、静かに、慎み深く、またたく黒い瞳。
「山野辺、楯岡一味の者が、向島に栄耀の日を送っておる、最上家の仇、最上の怨み、あれをその儘に見過す法はない――と」
「マア」
「武道のため、斬ってしまえと言うのだ」
「私風情が申す迄もございませんが――それでは余吾之介様、争いに争いを重ね、血で血を洗うことになりましょう」
「されば」
「どうぞ、左様な事を思い煩いませんように、鹿の子がお願いでございます」
「心配するな、俺はまだ何うしようという気もあるのではない、お秋の言葉にも一理はあると思っただけの事だ、が、俺はもう人を斬る気も血を見る気もない」
「余吾之介様」
二人は手をとりあうでもなく、雛と雛のように、静かな顔を見合せるのでした。
「今晩は」
「ハイ」
不意に鎖したばかりの表を叩く者があります。
「浅草から参りました。お秋さんが九死一生の大難で、放っておけばどんな事になるかわかりません、旦那様にお願い申してくれということで――」